Author: C. S. Lewis
翻訳版の有無: あり。邦題「カスピアン王子のつのぶえ」
映像化: あり。「カスピアン王子の角笛」
英語レベル: Advanceレベル(洋書を1年間に1冊読了出来る)
この本は、こんな人達にオススメします。
・自分ではない何かに憧れている人
・守るべき居場所がある人
・誰かのために行動できる人
本作品の印象は新旧の融合。
前作に登場したペベンシー四兄弟がナルニア国の旧を象徴し、タイトルになっているカスピアン王子がナルニア国の新を象徴します。
物語によくある王位継承権争いもテーマに挙げられているので、読者は多方面で本作を楽しめると思います。
本作の設定は、旧ナルニアの民(Narnian)を追いやって本土を統治したテレマール人(Telmarine)の世に移った時世のナルニア。
あるイベントをきっかけにナルニア国へ呼び戻されたペベンシー四兄弟は、一人のドワーフと出会い、現在のナルニア国の時世とカスピアン王子の身の上について聞きます。
この時世に生きるカスピアン王子は、乳母からかつてのナルニアの民の話を伝え聞いて育ち、過去への憧れを抱いて育ちました。
カスピアン王子の立場は、王子と言えど不安定でした。
叔父であるミラース王(Miraz)に嫡男がいないため、カスピアン王子が後継ぎという立場にあります。
ミラース王はカスピアン王子と対照に、かつてのナルニアの姿に反発する考えの持ち主。
ナルニアの民を追いやったテレマール人の子孫というバックグラウンドがあるため、かつてのナルニアが表舞台に立つことを嫌がるのは真っ当です。
カスピアン王子がかつてのナルニアの姿になぜ憧れを抱くのか、私個人は、上記の自身の不安定な立場から現実逃避するため夢見たのではないかと思いました。
次期王として勉学に励む中、カスピアン王子が一番好きな科目がナルニアの歴史でしたから、当初の彼の意識は過去に向いています。
カスピアン王子の微妙な立場が一気に危うくなったのは、彼に従兄弟が生まれた時。
ミラース王に実子が誕生し、危険を察知した彼の師父コルネリウス博士(Dr. Cornelius)にカスピアン王子を逃がします。
コルネリウス博士に自身の父親の末路を伝えられ、王になるよう説得されたカスピアン王子は、自分にとって大切な存在は誰か、何を守りたいか、王になる立場にあることが一気に現実味を帯びます。
自分の立場が大切であることはもちろんですが、幼少期に叔父から引き離された乳母、そしてコルネリウス博士は彼にとって大切な存在。
自分を大切に思ってくれた人達を守りたいと思うのです。
逃亡中のカスピアン王子はある日、ナルニア国を追いやられて細々と暮らすアナグマのトラッフルハンター(Trufflehunter)、ドワーフのトランプキン(Trumpkin)とニカブリク(Nikabrik)に出会い、自身の身の上を話します。
彼らを通じ、カスピアン王子はかつてのナルニアの民達の協力を得て、ミラース王率いるテルマール人と戦う覚悟を決めるのです。
彼が勝てばテルマール人として世を治め、かつナルニアの民達を解放することになります。
トラッフルハンター、トランプキン、ニカブリクの三者全員から賛同を得られたわけではありませんでしたが、カスピアン王子は彼の元に駆け付けたナルニアの民と、ペベンシー四兄弟と力を合わせてミラース王に立ち向かうのです。
自分の居場所、という点はどのキャラクターにとっても大事なテーマになっています。
前作のエピソードも引き継ぐ箇所があり、旅の最中にある決断をした際、ペベンシー四兄弟のナルニア国に対する立ち位置と現代に対する立ち位置がわかる描写があります。
前作でナルニア国の存在を心から信じた末っ子ルーシーは、今回も変わらずナルニア国及びすべての王アスランを心からサポート。
前作でナルニア国の脅威にもたらす側にいた次男エドマンドは、前回の失敗を学び、自分の立ち居振る舞いを改めていて成長を感じます。
より成熟した長男ピーターと長女スーザンは、今後ナルニア国とどう向き合うか岐路に立たされます。
主人公のカスピアン王子を含め、五人それぞれの立場は違えど何を守るのか考えさせられる作品でした。
前作同様、力を合わせて何かを成し遂げる動きは変わりないのですが、その中でも仲間同士で反発があったり読み応えのある作品に仕上がっています。
Comments