Author: George Orwell
翻訳版の有無: あり「動物農場」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「真の平等は存在するか、ということを考えさせられる」というベネフィットを得られます。
最近のニュースで、ある国のトップが別の国へ亡命した、というものを目にしました。
国の権力者が不在となることで、社会情勢がひっくり返るわけですから、その国の住民のうち、現状がつらいと感じていた人たちは、今回の亡命で国がよくなると感じるでしょう。
反対に、今回の亡命がネガティブと捉える国民は、国の未来がまた暗く映るかもしれません。
それぞれの立場に応じて、国の変化をどう感じるか、変わるかと思います。
本作も自分を取り巻く環境の変化により、今までの日常がひっくり返る状況が繰り広げられます。
ユニークにも、主人公となる登場人物たちはメイナー牧場(Manor Farm)で飼育される動物たちで、彼らは牧場の主であるジョーンズ氏(Mr. Jones)から自由になることを求めて反乱を起こします。
反乱の目的は、人間からの自由と平等、という反乱を起こすにはまっとうな理由なのですが、やがて牧場内の動物たちの格差により、その平等さが崩れていく様子が描かれます。
この格差を生んだのは、知性でした。
物語冒頭に登場する老いた豚のメイジャー(Old Major)は、動物たちを集めて夜な夜な集会を開き、人間を敵視し、動物は平等であるとうたう「動物主義」を唱えます。
動物たちを結束させる「イングランドの獣」(Beasts of England)という歌で集会を完結し、やがてメイジャーが死ぬと、若いスノーボール(Snowball)とナポレオン(Napoleon)という二頭の豚がリーダーとなり、動物たちをまとめます。
ジョーンズ氏含む人間たちを牧場から追い払うことに成功したスノーボールとナポレオンは、動物の平等さをうたう7つの掟を制定し、人間のいない環境を整え、牧場の名称もアニマルファーム(Animal Farm)に変えました。
ここまでは人間追放という、一つの目的に向かって進んだ動物たちでしたが、やがてスノーボールとナポレオンは対立していくようになります。
スノーボールは動物の種族に合わせて読み書きを教えたり、動物主義を教えようとしますが、種族によって知性・知能が低いこともあり、うまく理解されず失敗に終わります。
一方のナポレオンはスノーボールの政策に興味がなく、自分たち豚は牧場の運営に必要な種族として、ほか種族との差別化を図るようになりました。
ジョーンズ氏による農場奪還を退け支持を増やしたスノーボールは、牧場をさらに豊かにするため風車建設を提案します。
間もなく可決されるかという集会の最中、ナポレオンが手懐けた犬たちによりスノーボールは追放され、悪名は彼に注がれることになり、ナポレオンと豚たちによる独裁が始まります。
ほかの動物たちは、どこかで牧場の様子がおかしい、当初メイジャーが説いた理想の自由で平等な牧場を作る理想が豚だけが特権を得られる制度になっている、と疑問を抱いたはずですが、これまた口のたつナポレオンの部下の豚スクイーラー(Squealer)により言い含まれてしまいます。
ちっとも生活がよくならないという不満や不安、また当初の7つの掟さえも知らず知らず豚たちに都合がよいように変化していく状況に、世の中の窮屈さを感じずにはいられません。
そしてベネフィットとしてあげた、真の平等は存在するか考えさせられるという点ですが、これを議論するのがとても難しいと感じています。
人間たちを追い出した後、豚にとって都合のよい姿に変えていったアニマルファームでしたが、知性・知能ともに低い羊やネズミはゼロから考えて新しいものを作り出す能力に欠けていました。
どちらかというと誰かが作ったルールのもと型にはまった生活をする方が、この動物たちには都合がいいでしょう。
豚と不平等になりますが、知性・知能の低さから彼らは不平等だと感じないのです。
不平等さを感じて心がもやもやする動物として馬たちが登場しますが、彼らは不満を感じながらも権力ある豚たちに逆らえず、体の大きさから他の動物から頼りにされ、疲れさせられる悲しさを表現していました。
その悲劇に見舞われたのがボクサーという中年くらいの馬で、人間との対峙や風車建設など、がむしゃらに働きますが体を壊してしまうという悲しい運命が待ち受けています。
彼のそばで様子を見てきたしっかり者のメスの馬クローバー(Clover)、知能が高い故の皮肉屋のロバのベンジャミン(Benjamin)、おしゃれ好きな怠け者の白馬モリー(Mollie)という馬、ロバという間でも運命が分かれることになります。
他の動物と比べて体の大きい馬やロバは、労働力としてもってこいの動物であり、いくら平等をうたっても体の小さな動物と全く平等な労働条件を得るのは無理な話です。
独裁を敷いたナポレオン率いる豚たちは明らかに悪者ではあり、平等と自由を掲げようとした新しい牧場の方針を奪ったのですが、果たして真に平等な世の中を作ることはできたのでしょうか。

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