Book Report: gods in Alabama
- Masumi
- 2024年12月15日
- 読了時間: 5分
Author: Joshilyn Jackson
翻訳版の有無: なし
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「過去と向き合い約束を守るには勇気がいるとわかる」というベネフィットを得られます。
自分との約束を守り抜くのは難しい、とよく言いますね。
三日坊主になる原因です。
習慣化されていない、約束を破っても資産や信用を失うといった実害がない、など様々な要因はあります。
本作は、当時十八歳の自分が立てた約束を十年間守り続けた女性の話を描いています。
それは重い約束ですし、つらいものでした。
主人公のアーリーン(Arlene Fleet)がイリノイ州シカゴに来て十年経ちますが、彼女は一度も故郷アラバマ州に帰っていません。
それは彼女が故郷を出る時に神様に立てた三つの約束を、ひたすら守っているから。
嘘をつかない、婚外交渉を持たない、故郷に帰らない。
これらを守るから、どうかあの体を表に出さず隠し通してください。
あの体、というと抽象的ですが、英語ではthe bodyで本当は遺体を指します。
お願い事はスキャンダルで物語の中で誰を指すかわかりますが、アーリーンの約束事は、神様に立てた、という建付けであると同時に、自分との約束でもありました。
なので、ちょうど物語冒頭、アーリーンの叔父(あるいは伯父)の退職祝いが行われるという知らせを叔母フローレンス(Aunt Florence)から受けますが、アーリーンは例により断り、また自分との約束を守るのでした。
これで彼女の心の平和が保たれます。
かつての同級生ローズ・メイ・ロリー(Rose Mae Lolly)がアーリーンの前に現れるまでは。
ローズ・メイの目的は、彼女の学生時代の恋人でアーリーンとも同じ学校に通ったジム・ビバリー(Jim Beverly)を探しており、アーリーン含め旧知を頼り、情報を集めているとのこと。
アーリーンはローズ・メイと会うなり彼女を追い返す、ローズ・メイも根気強くアーリーンから情報を取ろうとつきまとう、という押し問答をしますが、ローズ・メイが折れてシカゴから引き揚げます。
しかし、アーリーンの一つ上の従姉クラリスにコンタクトする可能性がよぎると、アーリーンはいてもたってもいられません。
時同じく、アーリーンの恋人のバー(Burで、本名Wilson Burroughの名字バーロウから)も事態を動かします。
アーリーンとローズ・メイとの再会や、彼女が叔母フローレンスの連絡を無下にする様子を見て、これまで恋人関係に抱いてきた疑問をぶつけ、アーリーンの家族に会わせるよう伝えます。
しかも、会わせてくれないなら、この関係はこれっきりだと最後通告まで突きつけるのです。
とうとう折れたアーリーンは、バーを伴い、ローズ・メイがクラリスと接触する前に故郷へ戻ることに。
道中彼女は、彼女がその約束をするまでの子供時代や、約束をするに至った経緯、そして鬼門であるジム・ビバリーとのことを思い出すのです。
アーリーンが約束を守るというのは、従姉クラリスを守ることであり、自分の心を保つためにも大切なことでした。
アーリーンもクラリスも、幼少期に家族間のつらい出来事を経験しています。
元々心が不安定な気質だったアーリーンの母は、アーリーンの父が病気で亡くなった後、すっかり塞ぎ込み、姉妹であるフローレンスが二人を呼び、アラバマで暮らすようになりました。
アラバマに移り住んだ幼いアーリーンは年の近い従姉クラリスとすっかり意気投合しますが、クラリスもあーリーンが来る前に、兄の死という悲劇に見舞われていました。
叔父よりも叔母フローレンスの方がどっしり構えている風情で、頑固で一筋縄でいかないというところから、アーリーンもクラリスも彼女に子供ながら、ティーンながら反発しつつも心配かけたくないという思いが強くあります。
やがて女性らしく美しく成長する二人ですが、クラリスは明らかに美しくなり、男性生徒たちの注目の的です。
そこに登場するのがジム・ビバリーですが、彼もクラリスを気にしつつ、彼にはくっついたり離れたりしながら一番大切にする恋人ローズ・メイがいました。
ローズ・メイも魅力的なティーネイジャーに成長しますが、一方のアーリーンは二人に気後れする立場にいます。
ジム・ビバリーのことだけでなく、何かにつけてクラリスと比較されるアーリーンは、外側の世界では特にローズ・メイに、家族・親戚間ではクラリスに、劣等感のようなものを抱いていきます。
そして運命の夜に、ジム・ビバリー、ローズ・メイ、クラリス、アーリーンが関わるある出来事が起き、クラリスを守らなければならないと思い詰めたアーリーンは思い切った行動し、やがてあの三つの約束をするのです。
嘘をつかない、婚外交渉を持たない、故郷に帰らない。
つまり、この出来事を境にアーリーンは最初の二つには手を出していたし、思い切った行動を起こした後、進学を機に故郷に帰らない選択をしたのです。
クラリスを守らなければならないとアーリーンがなぜ思い詰めたかは、また彼女がとった「思い切った行動」とは具体的にどんなことか、それは物語の中で出てきますが、約束すれば神様が必ず叶えてくれるという保証がない中、自分と三つの約束をしたアーリーンには
とても勇気がいることでした。
そして彼女が「あの体=遺体を隠してください」というのだから、なんとなく想像がつくかもしれません。
保身などの理由で人は咄嗟に嘘をつくことがあるし、好きな人がいて感情が高ぶれば婚外でも人と関係を持ってしまうこともある。
そして誰か親しい人がいれば、故郷にも帰る。
それをしないと決め、やり通したアーリーンにはものすごく勇気のいることだし、神経を使うことだってあったはずです。
ただし、自分の過去にすっかり蓋をしたというのも事実でした。
自分との約束を貫くアーリーンも、故郷で家庭を持ったクラリスも、ジム・ビバリーの名前が出れば過去の「ある出来事」が蘇り、怯える始末。
つまり、本当に過去と向き合うことがまだ完全にはできていません。
それは勇気がいることですし、蓋をして今を生きる方が楽な場合もありますが、やはり二人の様子から言えるのは、過去と向き合うというのは勇気が必要です。
そして、自分との約束を守り続けるもの、人が関わることでもあるので、完全に叶えるのが難しい場合もあり、それを貫くのは勇気がいるのです。

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