Author: Eric Knight
翻訳版の有無: あり「名犬ラッシー家路」
映像化: あり。「名犬ラッシー」
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「相手や物に対し、お金と交換ができない価値を見出すことができる」というベネフィットを得られます。
具体的な数値を使って価値を示すものの代表格がお金です。
主観的に心惹かれなくとも一万円単位を超えるものもありますし、その反対もしかり。
その物だけでなく、時間やその物を使うことで提供してくれる物語を手にするため、お金を払って購入しますが、
世の中にはお金で買えないものがあります。
それを表すのが本作です。
ラッシーはメスのラフコリー犬で、イギリスのヨークシャーに住むカラクルー家(The Carracloughs)に飼われています。
美しい毛並みや毅然とした佇まいから特別な印象を受ける犬ですが、それ以上に、権力者の公爵から引取依頼を持ち掛けられても譲らない主人、サム・カラクルー(Sam Carraclough)の姿勢から、町の人たちから一目置かれる犬でした。
ラッシーの特徴には、時間に正確という気質があり、学校が終わる午後4時になると校舎の前で待機し、カラクルー家の息子ジョー(Joe Carraclough)を迎えます。
家族に忠実な、よく躾けられたラッシーは、一家はもちろん、町の人の宝でもありました。
ですが不況の波が影響し、結局ラッシーは公爵に引き取られることになり、ジョーは大きく悲しみます。
長年の願いが叶い、ラッシーを手に入れた公爵は、自身のお気に入りの孫娘プリシラ(Priscilla)にラッシーを紹介しますが、ラッシーは知らんぷり。
元の家を恋しがる忠犬ラッシーは何度か脱走し、一家と公爵を困らせます。
やがて、生活のために公爵からお金を既に受け取ったサムはつらい決断をし、ジョーを連れてラッシーが公爵家に留まるよう命じます。
公爵も、ラッシーをスコットランドへ連れて行ってしまいますが、人間の思惑と裏腹に、ラッシーは元のヨークシャーを目指して再度脱走を図るのです。
自分の希望と生活の足しのため、お金でラッシーの扱いを決めたサムと公爵。
それを対比するように、お金ではラッシーを扱えないと悟るのはジョーとプリシラです。
祖父である公爵に猫かわいがりされているはずのプリシラですが、物事を弁えているところに知性を感じます。
ラッシーに対する愛情があるため、ジョーは手放したくありませんし、生活のためのお金が絡んでいるとわかっていても、ジョーは諦めずにラッシーを取り戻そうと両親に訴えます。
彼には、他の犬とラッシーを取り替えられない、これまでラッシーと築いた絆や思い出があるので、諦めないのも当然です。
反対に、お金で事態を収束させた(と思っている)公爵は、ラッシーを手に入れたものの、傍に置いて自ら世話するというのでもなく、彼に仕えるハイネス(Hynes)に任せラッシーを広い敷地に離しておくなどして、愛情をかけるというよりコレクションして終わりというような印象を受けました。
公爵が支払ったお金以上の価値がラッシーにあり、それをカラクルー家が受け取るに相応しいという点は、実は幼いプリシラが理解していて、そのことから彼女はある機転を利かせてくれます。
結末が見える物語ではありますが、お金で買えるものと、お金で買っても手に入れられないものがあると気づかされました。

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