Author: Dr. Seuss
翻訳版の有無: あり。「いじわるグリンチのクリスマス」または「グリンチ」
映像化: あり「グリンチ」
英語レベル: Basicレベル(洋書に一日3分向き合える)
この本は、こんな人達にオススメします。
・いろんな理由でクリスマスが嫌いで、十二月は一番憂鬱な人
・何かを与えることの意味を再認識したい人
・サンタクロースはいると信じている人
クリスマスを舞台にした物語と言えば、Charles DickensのChristmas Carolが有名です。
孤独な老人スクルージュが過去と現在の自分を振り返り、改心後、奪ってばかりいた自分を改めて人に与える人物へ変化していく物語ですが、今回紹介するグリンチはChristmas Carolに通じるものがあります。
作品の内容に触れる前に、タイトルを使って3点ほどお勉強です。
"How"は5W1Hの一つで方法を表現する時に使います。
How to cook(料理の仕方)、How to ride(乗り物の乗り方)、How to handle(物事の対処法)などといった使い方をします。
"The Grinch"は、不満、興ざめという意味合いを持ちます。
そして、冠詞のtheが付いています。
これを読み解くと、実はGrinchはグリンチの本名ではないことに気付けます。
作品の中に本名は登場しませんが、グリンチは不満や興ざめを象徴する存在なのです。
最後に"Stole"は、盗むStealの過去形です。
なので、グリンチはクリスマスを盗んだことがわかります。
ではどのようにして盗んだか、そして盗んだ後に彼はどうなったかというのが物語のテーマになります。
ある山のふもとにはWho-ville(フービル)という村があり、そこにはWho(フー)と呼ばれる種族が住んでいます。
彼らはクリスマスの準備で大忙しですが、山頂に住む緑の怪人グリンチはクリスマスが大嫌い。
フー達からクリスマスを奪って、何とかクリスマスを迎えることを阻止したいと悪だくみします。
サンタクロースの振りをしてそりを操り、クリスマスイブが更ける頃にフー達の家から料理やプレゼント、飾り付けまで盗み切ってしまうのです。
クリスマスを迎えた時、フー達の思わぬ姿勢を見てグリンチ自身がTakerであること、そしてクリスマスは料理やプレゼント、飾り付けだけではないことに気付かされるのです。
この作品は子供向けに作られているため文章やページ数は短いのですが、TakerのグリンチとGiverのフー達のクリスマスの迎え方に対する違いが丁寧に描かれています。
ひとりぼっちのグリンチは、理由なくクリスマスを嫌がり、クリスマスを楽しみにする人たち(この場合フー達)を憎み、料理やプレゼント、飾り付けを盗めばクリスマスなんて祝わずに済むと考える、マテリアルにクリスマスの意味を見出しているキャラクターです。
私達人間に置き換えてみるといかがでしょうか?
数ある祝日の中でもクリスマス、そして後続のお正月は、ほかの祝日と違って誰かに何かを与えるシーズンになっていますね。
家族やパートナー、親しい友人とプレゼントを交換する、お年玉やお年賀を渡す、仕事や勉強などを一度やめて大切な人達と時間を共有する、という時期です。
そんな時に、自分が持っていないものを他の第三者が持っていると、自分が欠けていて嫌な気分になったことはありませんか?
今回この作品を読んだ時に、おそらくそれが、グリンチの意地悪な心の根源なのではないかと感じました。
友達と時間を共有するわけでもなく、でも本当は寂しいくせに強がって頑固になるグリンチ。
何かを与えていないから、嫌われてはいないけどフー達から特別視もされていないグリンチは、素直にフー達に友達になってとも言えないから、彼らからクリスマスを奪う考えに至ったのだと思います。
私達はどうでしょうか?
クリスマスは大切な誰か=パートナーと過ごすもので、パートナーがいない人は寂しい人、というネガティブな考えが広まったのは、皮肉にも世界的に大ヒットしたマライア・キャリーの「恋人たちのクリスマス」が発端だったと推測します。
たくさんはいらない、大切なあなたさえいればいいという内容の、純粋な恋歌であるこの曲は私も大好きです。
彼女の曲のリリース前にも、クリスマスがテーマの恋歌は数々出ていますし(これ以外ならエルヴィス・プレスリーのBlue Christmasが好きです。失恋歌ですが)、クリスマスを家族以外と過ごすことは何ら問題はないと思います。
しかし、出るは出るはクリスマスに関連したネガティブワード。
「クリぼっち」「Holidate(holiday + date =休暇限定の恋人)」、「Single All The Way(ジングルベルのパロディ。ずっと独り身よという自虐)」、パートナーがいない人の琴線に触れるような言葉です 笑
それに触れて、そのとおりだと認めているから、クリスマスがつらくなってしまうんだなと、グリンチを通じて感じ取りました。
では、作品に戻って、フー達はどうだったでしょうか?
Giverであるフー達は料理やプレゼント、飾り付けがクリスマスだとは思っていません。
そんなものはマテリアルに過ぎず、クリスマスはちゃんとくるし迎える心づもりも実は出来ているのです。
ということは、グリンチは果たしてフー達からクリスマスを盗めたのでしょうか?
料理やプレゼント、飾り付けを片っ端から盗みまくり、満足したグリンチが、そんなものはただのマテリアルに過ぎないとするフー達の姿勢を見てどう感じたか、どう変化したか、という点について、ぜひ作品を読んで楽しんでいただきたいです。
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