Author: Jeffery Archer
翻訳版の有無: あり「ケインとアベル」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「第一印象を軽んじると大変なことになる」というベネフィットを得られます。
「ケインとアベル」は25年1月に舞台上演が決まっています。
このニュースを見て、過去に読んだ本作を思い出しました。
(スケジュール調整を試みましたが、舞台を見に行けず断念。)
ケインとアベルというと、旧約聖書に登場する兄弟を差し、聖書の中で初めて人が人を手にかけてしまうというエピソードです。
ですが本作に登場するケインとアベルは兄弟ではなく、異なる場所で同じ日に生まれた二人の男性が、縁があり出会い、その時の第一印象が最悪だったために生涯の敵としてお互いを認識して対立する、という物語です。
この作品を読破した時、私は二回目の挑戦だったのですが(長編だったため一回目は断念しました)、メインキャラクターであるはずの二人の二人が出会うシーンが本当に短くて、驚いたことを覚えています。
本当に、第一印象で人間関係が築かれるということを訴えています。
アメリカの裕福なケイン家に生まれたウィリアム・ケインは父のように銀行家へ成長します。
一方のアベルは、ポーランド出身で移民としてアメリカに亡命し、のちに名前をアベル・ロスノブスキーと変え、恩師からホテルの経営を学びます。
銀行家とホテル経営者、その接点はお金の融資なのですが、ウィリアムがアベルに対する融資を断ったことが発端で、二人は敵対するのです。
本作はかなりの長編小説で、二人の対立は子の代まで続くため、二人の生涯を描く作品でもあるのですが、この作品の面白いところはウィリアムとアベルが同じ空間で相対するシーンはこの融資の有無を議論する時間のみ。
もちろん二人が交差するシーンはありますが、直接会わないんですよね。
これが面白い。
唯一二人が対峙したあの融資の有無を議論する部屋の緊張感は、本から伝わってきます。
お互い仕事だから、融資できないという結論に至ったウィリアムの判断も仕方がないことなのですが、この時アベルは恩師が大切にするホテルを譲り受けたばかり。
何としてもホテルを存続させたいという熱意や意地もあったでしょう。
その私情を持ち込んでしまった時、アベルのウィリアムに対する気持ちは憎しみに変化してしまうのです。
幼くして父親を亡くしたことで早いうちから銀行家として鍛えられた上、のちに出来た継父とも折り合いが悪く、やけに大人びて感情を抑えがちなことから整然とするウィリアムと、
もともと熱い性格もあったろうに、故郷の戦争からアメリカに逃れ、早くに恋も経験することから感情豊かなアベル。
いかにも相反する二人の印象ですが、例えば融資の話をもう少し穏便に進められたら、二人の仲も違っていたでしょうね。
さらに読み進めると、仕事以外のことでも二人は共通して頭を悩ませる出来事が起きてしまい、ウィリアムもアベルもお互いに対する敵愾心を強めていきます。
(その時は二人とも人の親なので、年を重ねて頑固になっている。)
たった一度、顔を合わせて話をした時の印象や立ち居振る舞いが気に入らなかったがために、長きに渡って相手のことを憎んでしまう。
第一印象を軽く見ると痛い目に遭う、ある種教訓めいた作品です。
舞台が見られないの、残念。

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