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Book Report: Love, Mom

  • 執筆者の写真: Masumi
    Masumi
  • 7 時間前
  • 読了時間: 4分

Author: Iliana Xander

翻訳版の有無: なし

映像化: なし

英語レベル: Advanced(一年間で一冊洋書を読了できるレベル)


「肉親なのにこの違和感はなんだろう、と感じたら要注意」


2020年に私達の生活様式が変わった頃から、「風の時代に沿って軽やかに生きよう」とか「あなたはどう生きるか」とか、立場とかではなく個人の心に問いかける世の流れに移り変わりました。

これまでなら見逃しても済んだことも、問題として浮き彫りになってきた世の中で、本作品の主人公も自身の心の違和感に向き合ったために、思わぬ事柄を表に出した顛末を描いています。


女性として華やかで、著名な作家としてキャリアを築いあげた母エリザベス・キャスパー(Elizabeth Casper/E. V. Renge.)が事故による怪我が原因で死んだ。

大学生になる彼女の娘マキンジー(Mackenzie Casper)は、あまりその事実を受け入れられないでいました。

母が突然亡くなったことは確かに悲しいけれど、幼い頃から自分と母の間には見えない壁のようなものが出来ていて、仲良しな親子ではありませんでした。

自分も作家活動に興味があり、学校でもそれに関連する講義を受けるマキンジーだけど、どうやっても作家E. V. Rengeが影を落とし、思うような活動を出来ていませんでした。

親友で、マキンジーが仄かな想いを抱くEJが寄り添ってくれるから、彼女の心は少しだけ軽くなる。


そんなマキンジーは、母の葬儀の際に父ベン(Ben Casper)が見知らぬ男性と口論するシーンを目撃します。

男性のことを知らないと言い張る父の様子に違和感を抱きつつ、その場は引き下がるマキンジー。

喪失感が残る中、日常に戻ろうとするある日、マキンジーは「Love, Mom/母より」と書かれた謎の封筒を受け取ります。

その中身を紐解くと、母がベンと出会った時、彼の浮気によって傷つけられたこと、そして(確か直接そう明記されていなかったと記憶しますが)現在もそのことを恨む気持ちを告白する文書が出てきました。

母が書いたとされる文書が記すのは、ベンの不貞以外にも、母の生い立ちについて。

様々な事情から家族から離れ、全く他人の世話人の下で生活する、いわゆるフォスターハウス出身の母が、そこで受けたひどい仕打ちや、やがてベンと出会い恋に落ちること、そして彼に横恋慕したベンの浮気相手トニヤ・シャファー(Tonya Shaffer)との三角関係を知り、マキンジーは動揺を隠せません。

マキンジーは両親の関係があまりよくないことを知っていましたが、母の暴露文書めいたものから彼らの過去を知ることになるとは、思っても見ませんでした。

EJにも話を共有し、興味本位もあり、彼と二人で母の過去をたどる調査やロードトリップをする二人ですが、地道な活動のお蔭で母、父、トニヤを知る老婦人にたどり着きます。

三人の話を聞くために彼女に会いに行くマキンジーとEJは、そこで全く予想しなかった秘密を紐解くことになります。


本作のミステリーとしてのテンポの良さにわくわくしながら、これまでぬぐい切れない壁を感じる親子関係を築くヒューマンドラマを見ることが出来ましたが、私もマキンジーとEJがエリザベスをたどる旅で思わぬ秘密が紐解かれた瞬間、驚きました。

最初は、作家として活躍したいのに、親としての責任を果たさなければならないことに、エリザベスが負担と感じていたのかなと、母子の確執の背景を予想していたのですが、蓋を開ければそうではなく。

ネタバレになるので言いませんが、理由を知れば、エリザベスがマキンジーに対し壁を作ったことも頷けます。

また、エリザベスとベンの夫婦関係がとっくの昔に冷え切っていたことも、冒頭は謎でしたが、これも母子の確執と同じタイミングで理由が明らかになり、これも納得でした。

もちろん、ベンの浮気が原因の一つなのですが、著名作家とその夫という、クラシカルな男女の力関係とは反対のカップルである(女性側に経済力がある)ことも一つのポイントです。

そう、ベンは器の小さい男なんですよね。

自分が関係する女性に力があることにプライドが許せず、だから浮気するのですが、マキンジーの母が持つ秘密が紐解かれた時、彼らの関係が冷え切りながらもずっと夫婦でいた理由が明らかになります。


母の死をきっかけに、違和感だらけの母との関係を見つめ直そうとするマキンジーの心の葛藤や成長など、ヒューマンドラマも見ものですが、エリザベスら三人の三角関係の行く末や、「Love, Mom/母より」と書かれた封筒がマキンジーへ届いた顛末をめぐるミステリーもうまく展開していき、楽しめる作品でした。

何より一番は、マキンジーが親子関係を見つめて自分が知らず知らずに持つ、親に対するトラウマを癒す様子が一番胸を打ちました。

自分は親から愛されていない、とマキンジーは思い込んでいたのだと、私は考えていますが、実はちゃんと両親の愛情を受けている様子も描かれています。

ただ、プロットツイストがうまい作品なので、どのように両親の愛情を受けているのかを読んだ時は、思わずうなってしまうかもしれません。


ree

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