Book Report: The Ghost and Mrs. Muir
- Masumi
- 12月5日
- 読了時間: 4分
更新日:12月6日
Author: R.A.Dick
翻訳版の有無: なし
映像化: あり。「幽霊と未亡人」
英語レベル: Advanced(一年間で一冊洋書を読了できるレベル)
「もう、可哀そうな人だとは、呼ばせない」
子供の頃にさっと観た映像だったので、番組タイトルも何もかもがわからないのですが、アニメーションで、確かキャラクターが動物で、幽霊の船長と女性が恋に落ちる物語で、それがずっと印象に残っていました。
インターネットという恩恵に肖ったものの、結局今日までその映像作品にたどりつくことはありませんでしたが、それらしき書籍に出会ったのは、まさに運命そのもの(ちょっと大袈裟かしら)。
それが、この「幽霊と未亡人」でした。
子供向け作品だったため映像作品の方は動物の擬人化で物語が進みましたが、本作はもちろん人間が主人公。
夫を亡くした危うい身の上の女性と、幽霊とはいえ屈強な男性の、住む世界を超えた友情の物語です。
こんな対照的な人物が登場するので、最初は恋物語になるのかと思ったのですが、本作が表現するのは女性の自立でした。
ルーシー・ミューア(Lucy Muir)は夫のエドウィン(Edwin Muir)と死に別れ、彼との子供であるシリルとアナ(Cyril and Ana)、そして気心の知れたメイドのマーサ(Martha Godwin)を連れて、夫の家族から離れた場所に家を借りて新生活を始めることにします。
夫の家族と物理的な距離を取ったのは、彼らから常に「気の毒なルーシー(Poor little Lucy)」と呼ばれることを嫌ったから。
特に気の強いエドウィンの姉エヴァ(Eva)とは気が合わず、彼女のペースに乗せられてしまうことにも嫌気が差したので、ルーシーは子供達を連れて自分達の生活リズムを確保しようともくろんだのです。
何かいわくでもついていそうな建物を借りることになり、テンプレ通りそこは幽霊のグレッグ船長(Captain Gregg)が成仏しきれず憑いた建物でしたが、思いのほかルーシーと気が合い、子供達の成長やルーシー自身の心の自立をグレッグ船長が見守る形で話が進みます。
現実世界で生活する面々に対して、気を遣って自分の気持ちを中々素直に言い表せないルーシーですが、グレッグ船長と一緒にいる時はぽんぽん言いたいことを言いまくるキャラクターに変貌します。
もちろん、幽霊であるグレッグ船長なので、ルーシー本人や彼女の親戚に何の責任ない立場故に彼も言いたい放題だし、彼女も本音で話が出来るというのもうなずけますが、初めて会った時なんとも頼りないルーシーが、年を重ね、子供達の成長を見守るうちに自立していきますし、その姿を見るグレッグ船長も長年の友人を見る目線から変化していきます。
ルーシーが母親ゆえに、物語の後半は自身の子供シリルとアナがどう成長していくかに視点がシフトしていきますが、やや保守的な兄シリルとフリースピリットの妹のアナの確執を経て、物語は確実に明るい方へ向かっていくので、読者としても楽しく見守れました。
物語を通じて言えるのは、冒頭にも書いたように、もう誰にも自分が可哀そうな人だと言わせないという力強いルーシーの気持ちが感じられたこと。
確かに夫という後ろ盾を失ったルーシーは、物語の冒頭は不安定な立場の女性でしたし、夫の姉のエヴァが出しゃばる場面には読者としても辟易しましたが、別の視点から見れば結局、ルーシーは当時の社会では立場が弱く、誰しもが彼女がきちんと生活できるのか、今後苦労しないか心配していたのです。
結婚していたかは忘れましたが、夫の姉の立場であるエヴァは義妹ルーシーを心配して口を出し、手を出し、という状況でした。
(悪く言えば義妹へのいびりでしょうけど、エヴァはルーシーを心配しての行動でした。)
確かに伴侶を亡くし、自分一人で子供を育てるとなると、大変な苦労ですし大変そうだと思いますが、ルーシーは決して自分が不幸だとか、可哀そうだとかは思っていません。
むしろ周囲から可哀そうだと思われることを、疎ましく思っていたくらいです。
やがてシリルとアナが結婚してもおかしくない年齢に差し掛かり、彼らが選んだ未来に直面するルーシー。
諸々イベントがあるとはいえ、成長したルーシーが自分を内観し、結果自分がどんな人なのかを取り戻す話になっています。
ここまで成長すると、誰もルーシーを可哀そうだなんて言いませんでした。


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