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執筆者の写真Masumi

Book Report: Peter Pan

Author: J.M.Barrie

翻訳版の有無: あり。「ピーターパン」

映像化: あり「ピーターパン」

英語レベル: Advanceレベル寄りのBasic(洋書に一日3分向き合える)



この本は、こんな人達にオススメします。

・大人になりたくない人

・子供の頃ごっこ遊びが好きだった人

・いつか空を飛びたいと思っていた人



子供向けの作品にはどこか共通して「大人になること」というものがあります。

先日読破した「長くつ下のピッピ」三作品もですが、過去に読んだ「くまのプーさん」も主人公達は子供から大人になる狭間の時間を過ごし、成長することについて独自の悩みを抱えます。

大人になる過程を描いたのがこれらの作品ならば、今回紹介する「ピーターパン」は、大人になることを拒否した少年と、大人になることを選んだ少女の対比が描かれた作品です。


明確ですが、ピーターパンとウェンディのことです。

ダーリング家で自身の影を落としたピーターパンが、その影を取り返しに忍び込み、足につけて戻そうとしてうまくくっつかないことに泣いていたところをウェンディにみつかったことをきっかけに、ネバーランドへの冒険が始まります。

妖精ティンカーベルの妖精の粉をまとい、彼女の弟のジョン、マイケルを連れて、ロンドンから旅立ちます。


ピーターパンはいくつか映画化されていて、やはりディズニー映画が一番有名だと思いますが、概ね小説どおりです。

ジェームズ・バリ原作に構想を得て作られた「フック(Hook)」も面白いです。

ジェームズ・バリの自伝映画「ネバーランド(Finding Neverland)」もよかったです。


と、ここまで淡々と書きましたが、これまで観たことがあるディズニーアニメ作品の中で比較して、「ピーターパン」はあまり好きではありませんでした。

現実世界とおとぎの世界を跨ぐ作品はどこか苦手意識がありまして。

(と言いながら、不思議の国のアリスは好き。ディズニーアニメ作品枠外では「ネバーエンディングストーリー」も当初好きではなかったです。)

今回読んでみて、改めて何が私に苦手意識を持たせたのか、理解しました。

子供が大人になる過程で感じるある種の感傷が、なんとなく切なくさせるのです。

そして、ピーターパンは大人になることを拒否する人を表していて、そこが気に障るのだと気づきました。

もしかすると、私自身もピーターパンと同じように、どこか大人になることを拒否しているのかもしれません。


私達は嫌でもいつかは大人になります。

その「大人」の定義は人によって様々ですね。

法的に成人した時、お金の収支に責任を持ち始めた時、初めて性交渉を持った時、出産、養子縁組、連れ子も含めて人の親になった時、そして自分の親が亡くなった時。

もちろんこれらを経験しても「大人」になれない人もいます。


ピーターとウェンディは、大人になることについて体現しています。

ネバーランドにはロストボーイという親のいない男の子達がいますが、ピーターとウェンディは彼らの親として過ごしました。

ピーターがお父さん、ウェンディはお母さんです。

しかもウェンディは、時々夢にうなされるピーターを宥めることもあり、ある意味ピーターのお母さん役も務めていました。

先述したものに当てはめると、ピーターはネバーランドで人の親として振舞っても大人にはなりません。

ロストボーイを含めてもピーターは一番強い少年ですが、彼は大人になることを嫌がります。

作中、ピーターが「man」と呼ばれるシーンが出ますが、頑なに否定し、「boy」と訂正します。

ネバーランドという心地よいおとぎの世界に留まり、12歳ほどの姿で成長を止めたピーターは、外の世界を知らないままです。

一方のウェンディは、同じ12歳くらいですがやや早熟な少女です。

弟が二人いることやロストボーイの母親役を務めるくらいなので、納得です。

彼の周りにいる女性達にやきもちのような感情を抱くシーンがあるため、おそらくピーターが初恋であり、おませさん。

ウェンディは大人になります。

そう、先述した「大人」を彼女は経験するので、大人になるのは必然なのです。


自然の摂理に反するピーターと自然の摂理通りに生きるウェンディ。

子供時代というのは誰しも懐かしむものであり、憧れであり、フレッシュですが、自然の摂理を意識する「大人」になると、いつまでもそこに留まることの方が不自然なのです。

「ピーターパン」は、この重いテーマをシンプルなストーリーで見事に描いた作品です。


さて、ピーターがネバーランドから現実世界に登場して、最初に見かけたダーリング家の人間がダーリング夫人だったことにちょっとした意味があるように思えます。

一緒にネバーランドに行ったウェンディを、皆でお母さんとして慕いますが、実はダーリング夫人もネバーランドに行ったことがあるのではないでしょうか。

あるいはピーターが本当に好きだった人は、ダーリング夫人では。

人の心の成長は明るさだけではない。

複雑な心情を描く良い作品でした。



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