Author: Patricia Highsmith
翻訳版の有無: あり「贋作」
映像化: あり。「リプリー 暴かれた贋作」
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「貫き通すと本物になる、けど苦悩もつきものだと気づく」というベネフィットを得られます。
これは漫画も読む私の個人的な考えでもあるのですが、読者を惹きつける話題の一つに芸能界、アイドルというカテゴリーがあります。
アイドルとは、虚構を作り上げて人に提供する。
言ってしまえば見世物です。
ですが、その見世物から私達は夢を与えてもらえます。
アイドルと一般人の関係がこれにあたると思うのですが、本作も嘘をつき通して本物扱いしたという点でも共通と言えるもの。
前作「太陽がいっぱい」から数年後、リプリーはフランスのベル・オンブレ(Belle Ombre)という小さな町に移り住んでいます。
製薬会社令嬢のフランス人エロイーズ・プリッソン(Heloise Plisson)と結婚し、静かな生活を送りつつも、リプリーはリーブ・ミノー(Reeves Minot)というギャングともパイプを持ち、贋作を世に出すことにも関わっています。
その贋作の出どころは、数年前に亡くなったデューワット(Phillip Derwatt)という画家。
リプリーは、いわゆる実行犯のバーナード(Bernard Tufts)と画廊を経営するエド(Ed Banbury)とジェフ(Jeff Constant)の三人と共同で、世に贋作の絵を出して資金を得ています。
ですが、彼らの元にデューワットの絵に使われる色が変わっていることに気づいたマーチソン(Murchison)が接触してきます。
しかも、マーチソンはリプリーに会ったことで、彼がデューワットに扮して世間に出ていることにも感づきます。
と、いうことは、また冷血なリプリーの血が騒いでしまうんですよね。
そう、リプリーはマーチソンを手に掛けてしまいます。
更に厄介なのは、贋作を手掛けるバーナードがリプリーの元に訪れて、彼と妻エロイーズを困らせます。
バーナードは贋作を手掛けること、そして故人のデューワットになり切ることについて、徐々に罪悪感を抱くようになってしまうのです。
贋作を手掛ける分、四人の中でバーナードが一番デューワットの陰に怯えることに。
そのほか、前作に登場したディッキーの従弟、クリス(Chris Greenleaf)がリプリーに接触し、ヨーロッパを知る旅行がてらリプリーと従兄弟を偲びに来ます。
過去の犯罪の匂いも蘇り、リプリーはアリバイ作りや保身のため様々な策をめぐらせます。
これは贋作をテーマにした物語ですが、何とかして本物になり切ろうとした人の物語でもあります。
それは、デューワットになりきろうとしたバーナードのことであったり、過去の事件や今回秘密を守るために他人を装ったリプリーのことであったり。
明確な記載はありませんが、おそらくリプリーは自分の過去を消し去りたいと思っている節があるので、リプリー自身が新しいリプリー像を作ろうとしている。
バーナードもリプリーも、始まりは偽物づくりであったのでしょうけど、それが様になり、板につくと本物になっていく。
ただ、元をただすと偽物なので、本人はそのことに悩むことになります。
その苦悩に悩まされたのがバーナード。
そこには私情が挟まれていて、バーナードは本物のデューワットを尊敬していたのです。
割り切るリプリーとは偽物から本物にすり替えようとする覚悟が違います。
虚像というのは、アイドルのように人に夢を与えるパターンもあり、世の中にその幸せな嘘を発信することからその事実に悩む人もいます。
嘘と本当をうまくバランスさせた人が、もしからしたらその嘘を本物にすり替えることができるのかもしれません。
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