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執筆者の写真Masumi

Book Report: Ripley Under Water

Author: Patricia Highsmith

翻訳版の有無: あり「死者と踊るリプリー」

映像化: なし

英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)



この本を読むと、「過去に引きずり込まれない強さを得られる」というベネフィットを得られます。


リプリーシリーズで初めてまともなベネフィットを伝えられた気がする 笑


私達は生きていれば様々な経験をしますし、その結果が良きにつけ悪しきにつけ、私達をかたどります。

過去の延長線上に生きる場合、それがどんな結果でも、過去に引きずられているとも言えます。

リプリーの人生は人の死がまとわりつくような人生でした。

生きていれば、死の一つや二つ経験します。

様々なパターンのお別れがあります。

ですがリプリーの場合、人を殺めて死に関わったエピソードもありました。

それに怯える素振りも見せずにこれまで来ましたが、唯一リプリーが心揺さぶられる死は、ディッキー・グリーンリーフ(Dickie Greenleaf)の死でした。

リプリーが手に掛け、偽の遺言書を作って、ディッキーのお金を使い生活するリプリー。

彼を乗っ取ったと言ってもいいでしょう。

乗っ取る覚悟を持ってこれまでフランスで生活してきたリプリーですが、同じVilleperceに引っ越してきたアメリカ人のプリカード夫婦、デイビッドとジャニスJanice and David Pritchard)に心を揺さぶられることに。


特にデイビッドは人の気持ちを弄んで精神を不安定にすることを楽しむ、ひどい気質の持ち主で、リプリーと贋作活動をしてきたバーナードの昔の恋人、シンシア(Cynthia Gradnor)に近づき、リプリーの暗い過去にたどり着きます。

画家デューワットの作品が贋作だと気づいたアメリカ人マーチソン(Thomas Murchison)をリプリーが手に掛け、その遺体をリプリーと遺棄したバーナード。

バーナードは、贋作活動に手を染める他の仲間と比べてデューワットを尊敬する一方で、自身も絵を描くことでデューワットを乗っ取る罪悪感に苛まれていきます。

そんなバーナードと、シンシアの関係はやがて終わりを迎えることに。

バーナードの気持ち含め、自分達の人生をリプリーに狂わされたと思っているシンシアにとって、このプリカード夫妻の接近は好都合だったでしょう。

夫妻は様々な手を使ってリプリーに揺さぶりをかけます。

物語の前半で、リプリーは妻エロイーズと旅行するのですが、その旅先にまでデイビッドがついてくるというありさま。

運よく旅行先にエロイーズの友人ノエルが訪ねてきたので、彼女達と別れてリプリーはフランスに単身戻り、他の贋作仲間のエド(Ed Banbury)と結託し、夫妻を迎え撃つことに。

リプリーの罪を白日の下にさらしたいデイビッドは、市内の川にボートを出して何か魚でも釣ろうとしますが、実はこれは、リプリーがかつて川に遺棄したマーチソンの遺体を探そうとする行為でした。

人の過去を使って安寧から引きずり出そうとするプリカード夫妻と、あくまで今の生活を守り抜きたいリプリーの一騎打ちです。


最後の作品の中に、これまでのリプリーの過去がみっちり詰まった印象の物語です。

マーチソンもディッキーも、そして実はリプリー自身も水が共通点になっていて、しかも不吉なのです。

二人の死は水に流され、リプリーの両親も水の事故で亡くなっており、前作かどこかの作品で、リプリーも自分の死は水によってもたらされる、と意図していました。

過去の犯罪が一気にリプリーに襲い掛かります。

普通の人なら罪悪感に苛まれるのでしょうけど、何度も言うようにリプリーにはそれがありません。

今あるフランスの小さな町での生活に満足し、その平和を保ちたいのです。

彼が過去に囚われないのは、罪悪感がないという人でなしである点もそうですが、今の生活を心から楽しんでいることにあります。

それが出来るのは、ディッキーの死のお蔭でもあるし(お金が入る)、エロイーズの父の事業のお蔭でもある(お金が入る)。

つまり、資金力も大きなパワーアイテムなのです。

私達は感情を持ち合わせているので、少しでも罪悪感は持ち合わせると思うのですが、自分の好きな生活が出来るだけの資金があれば、気持ちは二の次なのでしょうか。

面白いです。



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