Book Report: Secret Child
- Masumi
- 2 日前
- 読了時間: 7分
Author: Ann Major
翻訳版の有無: あり「一つの顔、二人の女」、「ゴールド」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年間で一冊洋書を読了できるレベル)
「人は第一印象がすべて。でも、人間関係の構築には顔の印象以外のことも重要」
昔、何かの機会でハーレクイン漫画を読んだのが始まり。
藤田和子先生が描いた作品で、「ゴールド」というタイトルだった。
丁度シドニー・シェルダンの「真夜中は別の顔」という作品を知った頃(だった気がする)。
だから、二つの作品は全く関連はないのだけれど、本来の自分の顔とは別の顔になる、というニュアンスの設定がある本作に惹かれていたのを覚えています。
今回、洋書を読むにあたって、原題と翻訳版タイトル、そして漫画のタイトルがあまりにかけ離れていたので、原作の洋書を探すのえらい苦労しました(笑)。
が、見つけたら読むしかない。
本作のテーマは顔。
人間関係を始めるのに、顔の印象は大事です。
恋人を探すのにマッチングアプリを使うのは、今の時代、特におかしなことではなくなったけれど、いい人を探す時にそのアプリに掲載されたその人の写真の美醜を気にするのは、仕方がないこと。
(というか、相手のことを何も知らなかったら、もはや顔を選ぶところから始めるのは、別におかしなことではないと思う。)
本作はまさに、一つの顔を共有することになった二人の女性のことを描いたお話でした。
※漫画「ゴールド」と原作とではかなり設定が変わっていますが、この投稿は原作をベースに書いていきます。
整形外科医のウェブスター・クイン医師(Doctor Webster Quinn)にとって、オペラ歌手のマダム・デブリン(Madam Devlin)は特別な存在。
彼女を自分の物にしたいという支配欲を持ちながら、当のマダム・デブリンは既に故人のため、クイン医師は自分の欲を満たすことが出来ませんでしたが、彼の整形外科医としての技術を使い、別の女性の顔にマダム・デブリンの顔を蘇らせました。
彼が整形した女性はシャンタル・ウェスト(Chantal West)。
整形後はミスチーフ・ジョーンズ(Mischief Jones)という名前でモデルとして活躍しますが、整形前は生まれ故郷で牧場を営む母セオドラ(Theodora West)、夫ジャック(Jack West)、娘のカーラ(Carla West)と不幸せな生活を送っていました。
ミスチーフ・ジョーンズは父親から愛されなかった孤独を子供時代から引きずり、母セオドラの跡を継ぐことへの強い反発心から、自分の従兄弟を含めて数々の男性と奔放な関係を持ちまくった挙句、自分の死をでっち上げてジャックに罪を着せて、都会のニューヨークに飛び出す、というバックグラウンドを持つとんでもない女性ですが、彼女のこの奔放さも相まって、クイン医師とは恋人のような関係も結んでいます。
クイン医師はミスチーフ・ジョーンズとの関係を続けつつ、癖と灰汁の強い彼女には手を焼いている模様。
(全くの他人に対して自分の理想像を求めているのだから、いろんなところでギャップがあって当たり前。)
そんな時、偶然にも自分の手の元に不幸な一人の女性が堕ちてきて、彼女の顔にもマダム・デブリンの顔の整形を施します。
そのもう一人というのが、ブロンテ・デブリン(Bronte Devlin)。
クイン医師が手にした偶然というのは、ブロンテはマダム・デブリンの実の娘だったのです。
美貌と才能に溢れる母と違い、平凡を地で行くブロンテはこれまた平凡な家庭を築いてきましたが、不幸が襲い、息子を亡くしたうえ、本来なら妻を支えるべき夫は彼女から離れていく始末。
追い打ちをかけるように交通事故に遭ったブロンテが顔に傷を負い、クイン医師の手にかかります。
(自分の憧れの女性の娘が都合よく顔に傷を負い、事故のため正常な判断が出来ない状態で自分の前に現れて、その人の気持ちを無視して整形するって、かなり鬼畜だと思う。)
ミスチーフ・ジョーンズは自らの意思で整形し、その美貌を武器に金や名声を思うままにしますが、一方のブロンテは他人の都合で整形させられ、挙句、母の代わりにさせられそうになります。
三人の男女だけなら話はシンプルですが、ここにミスチーフ・ジョーンズの夫ジャックが加わるから、ややこしくなる。
前記の通り、妻に濡れ衣を着せられたジャックは、自分の不当な立場を恨んでいました。
義母セオドラは幼い頃にジャックを庇護した命の恩人で、出所後も変わらずまた別の形で彼を庇護するのですが、ビジネスライクなセオドラとジャックの関係はお世辞にもいいとは言えません。
娘に牧場を継がせたがっているセオドラはジャックを使って彼女を連れ戻そうとしますが、当のミスチーフ・ジョーンズは故郷に戻る気などなく、それどころかブロンテに自分の振りをさせようとします。
本来のシャンタル・ウェストの姿を葬り、新しい姿で生きようとするミスチーフ・ジョーンズと、他人から人物像を押し付けられて本来の自分を模索し続けるブロンテ。
ここまで書くと、コメディー色も感じられし、「自分とは何か」というアイデンティティをめぐる話にも思えてくる本作ですが、クイン医師とミスチーフ・ジョーンズがかなりの悪役という設定のため、ブロンテとジャックはきな臭い展開に巻き込まれていきます。
残念なのは、悪役の二人が早々にご退場する展開になり、トラブルに巻き込まれた側のブロンテとジャックが危険に立ち向かっていくのですが、顔や他人の人生を押し付けられた側の二人が危機に立ち向かう流れは面白かったです。
様々なテーマがてんこ盛りの反面、「人は形代を本物以上に愛せるのか」とか「アイデンティティとは」とか「人は見た目がほぼすべて」みたいな太いテーマが欠けているところに不満が残る結果となりました。
これら以外にも、焦点が当たっていたテーマに親子関係、特に母親と娘というのが、本作には登場します。
母セオドラと娘シャンタル(ミスチーフ・ジョーンズ)、母マダム・デブリンと娘ブロンテ、そして母シャンタル(身代わりにされたブロンテ)と娘カーラという三組です。
ミスチーフ・ジョーンズもブロンテも、共通して母親の方が癖があってパワーバランスも強いです。
経営者セオドラとオペラ歌手マダム・デブリンという職種ですから、人の上に立って事業を回し雇用を作ったり、自分の技術でお客さんを楽しませたりという価値を提供する立場の二人です。
それらを持ち合わせていないシャンタルもブロンテも、母親に圧倒されるのは仕方がない。
一方のシャンタル/ブロンテとカーラの親子関係は、自らの親に対する葛藤を抱いたまま親になった二人と母親の愛情を渇望するエネルギーが知性へ向かうカーラという描かれ方。
カーラもまた不幸な生まれで、なんとシャンタルが異母姉妹シャイアン(Cheyenne)からジャックを奪って授かった子供でした。
シャンタルの父親が母以外の女性に産ませたシャイアンを可愛がり、自分には愛情を向けてもらえなかったことを逆恨みして、自身の恋愛・結婚で復讐したのですね。
子供のカーラとしてはいい迷惑です。
シャンタルは娘に見向きもしなかったようですが、ミスチーフ・ジョーンズの身代わりとしてシャンタルに成り代わったブロンテは、物静かなカーラに秘めた知性をみつけ、彼女に寄り添っていきます。
母の様子が変わったことを感じ取るカーラは、母が別人だとすぐに気づくし、ブロンテも彼女には本当のことを伝えるのです。
至る所で「誰かの代わり」とか「満たされなかった愛情」などのテーマが転がっているのですが、サスペンス方面としてはシャンタルないしミスチーフ・ジョーンズの存在が誰に一番影響を与えるのかということを考えると、自ずと危険の正体が浮かび上がってきます。
そして、ハーレクイン作品なので、一応ラブロマンス要素も含まれるのですが、因縁の相手である妻と時を経て再会した時に別人のようになっていたら夫はどうするか、というところが描かれていました。
顔がテーマの本作では、整形を経て誰かの代わりになるシャンタルとブロンテ(特にシャンタルの代わりになったブロンテ)が周りから持たれる印象をよく描いていたなと思います。
濡れ衣を着せられて投獄、という意味ではジャックも身代わりなのよね。

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