Book Report: Silver
- Masumi
- 11 時間前
- 読了時間: 6分
Author: Penny Jordan
翻訳版の有無: あり「シルバー」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年間で一冊洋書を読了できるレベル)
「うわべだけで強がっても、奥に隠れた弱さを突かれてはひとたまりもない」
私がメンターの一人と出会えたことで、これまで読んでこなかったジャンルの書籍に触れる機会を得たのは私の財産の一つ。
その「触れる機会がなかった書籍」の一つに、Brene Brown氏の「Daring Greatly」【本当の勇気は「弱さ」を認めること】という作品があるのですが、自分一人で抱えてきた弱さを共有するような気持ちを読者が抱く作品です。
自分を強く、良く見せるために、私達は勉強するなど自己投資しますが、自分の弱さを認めない限り、どこかで必ず躓きます。
これが不思議なことに、臭いものに蓋をし続けると、様々な形でこの弱さが姿を現すのです。
その臭いもの、弱さは私達の課題であり、宝物なのですが、これから紹介する作品はまさに主人公の弱さを表すもの。
主人公シルバー(Silver Montaine)はある男への復讐に燃え、かつて政府の秘密エージェントとして任務に就いていたジェイク(Jake Fitton)から性の手ほどきを得ようとしていた。
ジェイクは、麻薬シンジゲートに関わる男を追っていた最中に爆破事故に巻き込まれ、仲間のトムと自身の視力を失うという、悲劇的な過去の持ち主で、復讐のために愛情のない男性と一夜を共にしようとするシルバーにはもってこいの相手。
シルバーの正体は、ジェラルディン・フランシス(Geraldine Elizabeth Sophie Frances Fitzcarlton)という、伯爵だった父の血を引く唯一の後嗣で、莫大な財産と土地を管理する責任ある女性。
でも、表向きは生死不明となっている。
正常なジェラルディン・フランシスは、彼女の従兄弟チャールズによって女性の尊厳を踏みにじられて、滅茶苦茶にされたのだ。
自身を絶望に追い込んだチャールズに、伯爵の地位やこれまで先祖が大切に守ってきた土地をみすみす渡すわけにはいかない。
容姿端麗なチャールズはモテモテ男子だし、そういう環境下も働いて女好き。
全身に施した美容整形によって美しい女性に生まれ変わったシルバーは、自分の手だけではどうにも出来ないベッドテクニックをジェイクから得て、チャールズを翻弄するつもりなのだ。
とここまで書いてみたけれど、冷静に読むと、自分のことを全く大切にしていないシルバー/ジェラルディン・フランシスの姿が浮かび上がるのだが、まさに自身の性が彼女の弱点で、物語を通してついてまわります。
というのも、ジェラルディン・フランシスが復讐を誓う前、彼女はチャールズだけでなく彼の母マーガレット(ジェラルディン・フランシスの伯母)や父ジェームスから受けたプレッシャーにより、すっかり自己肯定感の低い女性に成長してしまいました。
ジェラルディン・フランシス出産後すぐに母は亡くなり、兄弟を望めなくなったジェームスは土地の管理など伯爵としての義務を守るため、ジェラルディン・フランシスを育てますが、娘のジェラルディン・フランシスは父からの愛情でたっぷり満たされたとは言い難い子供時代を過ごしました。
加えて、伯母マーガレットの冷たさはジェラルディン・フランシスを震え上がらせました。
マーガレットも気の毒な女性なのですが、十年ほどジェームスより早く生まれた彼女はそれまで一人っ子として両親の愛情を独り占めしていましたが、兄弟、それも男が生まれたことで、伯爵家の跡継ぎとしての期待を根こそぎジェームスに持っていかれてしまいます。
ジェラルディン・フランシスからすれば親世代の話ですから、封建的な風潮もあったのでしょう。
マーガレットからすれば、ジェームスは後から現れた嫌な存在。
その子供であれば、ジェラルディン・フランシスを憎むしかなかったのです。
弟ジェームソンと、その娘ジェラルディン・フランシスを憎むマーガレットの意思は、そのままそっくり彼女の息子チャールズに受け継がれてしまうのですね。
だからチャールズもジェラルディン・フランシスを、幼い時から(大人達がわからないように巧妙に)いじめるのですが、親の憎しみを受け取っただけだから、ジェラルディン・フランシスから土地や伯爵家の権利を奪ったとしても、その先の未来のビジョンがない。
誰にとってもネガティブな事柄からスタートしているこの相関図は、それがその人の弱みとなって、作中じわじわと苦しめます。
まぁ、主人公なので、ジェラルディン・フランシスは自身の弱さである自己や、女性としての尊厳に向き合います。
それが美容整形して、ジェイクの手を借りて性を初めて経験をするという少し乱暴なやり方だったとしても、ジェラルディン・フランシスは向き合ったのです。
ジェラルディン・フランシスは、身近な人からのプレッシャー(特に父親から十分な愛情を与えられたと感じられない点)により、ストレスから過食に走りました。
当時は太っていたジェラルディン・フランシス。
太っていることは決して悪ではありませんが、自分を愛せない彼女は食に走り、体型が崩れ、ますます自分を嫌いになっていきます。
幼い頃はチャールズから意地悪されていたジェラルディン・フランシスですが、ある時を境に優しく接してくれるようになった美しい従兄弟に強烈に惹かれていく彼女は、二人が会えない時間にチャールズが美しい女性と一緒にいる姿を想像する(あと、写真に載ったりもした)姿に不安を覚え、更にストレスになって食に走ります。
痩せて綺麗になって、チャールズに愛されたいと思うジェラルディン・フランシス。
これが、痩せて綺麗になった「自分を愛したい」とならないのだから、相当ジェラルディン・フランシスの自己肯定感は低いのです。
小説なので、いろいろな人が「世間が狭い」という設定で登場しますが、よく出来たプロットと、それに反してジェラルディン・フランシスの復讐劇はあっけなかった。
そのあっけなさというのは、やはりジェラルディン・フランシスが自身の胸の奥に必死に隠そうとした弱さと徹底的に向き合ったから、あっけなく済んだのだと思います。
人から押し付けられた憎しみをまるで自分の物として扱い、未来を想像・創造しなかったチャールズは、悪役にふさわしい結末をたどることになります。
彼も、母マーガレット同様に可哀そうな人なのですが、いつまでも甘いマスクにばかり頼ってもだめだよというもの。
当て馬でしかないようなジェイクも、実は肉親の愛に薄く、大切な人を亡くす悲惨な過去を背負った人なのですが、そこに更に盲目になるという不幸まで重なりながらも自分が出来る範囲で、かつて自分と仲間に爆破事故に巻き込んだ犯罪組織を追い続ける姿勢には引き込まれました。
様々なものを奪われたからこそ、ジェイクはジェラルディン・フランシスもといシルバーが復讐を済ませた後のことを心配する余裕がありました。
「復讐の先に何がある?」
奪われたものを取り返しに行くジェラルディン・フランシスことシルバーの、様々な葛藤に引き込まれる作品でした。
女性を否定されたことに向き合うのも、愛情もないまま女性を実感するのも大きなインパクトですが、ジェラルディン・フランシスは突破しまくりました。

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