Book Report: Sister
- Masumi
- 8 時間前
- 読了時間: 5分
Author: Rosamund Lupton
翻訳版の有無: あり「シスター」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年間で一冊洋書を読了できるレベル)
「たった一人で疑いを持つ人がいれば、事態をひっくり返すことが出来る場合もある」
あなたは、自分の兄弟とどれくらい近しい関係ですか?
本作は、読者に兄弟がいる場合、自分の兄弟とどれくらい親密かを問いかける作品のようにも感じました。
ビエトリス(Beatrice Hemming)には、フリースピリットと表現できる、自由人で常識に染まらない妹テス(Tess Hemming)がいる。
二人は過去に、両親の離婚や兄弟レオ(Leo)の病死を乗り越えたことも相まって、盛んに交流する姉妹で、年の差や職業(企業に属する堅い職業のビエトリスと画家を目指す学生のテス)の違いがありつつも、お互いを認め合う仲でした。
ある日、テスと突然連絡が取れなくなり、心配したビエトリスが警察に届け出たところから物語が始まります。
妹の無事を祈るビエトリスの想いは届かず、後日テスは腕の傷が原因で亡くなった状態で発見されます。
その傷や状況から、テスが自ら命を絶ったと推測されましたが、ビエトリスは妹の死の結果を真っ向から否定します。
テスは、彼女が通う大学の教授エミリオ(Emilio Codi)と不倫の結果、子供を宿しており、出産間近だったことから、妹が自ら命を絶つ理由がないというのがビエトリスの言い分です。
現に、ビエトリスはテスと共に、やがて生まれる子供に亡くなったレオの本名であるザビエル(Xabier)と名付けることを決め、出産を待ち望んでいました。
逆境の中にいるとはいえ子供の誕生を心待ちにするテスだから、誰かに殺されたのだとビエトリスは息巻きますが、捜査の結果、テスはビエトリスの知らない間に出産し、しかもそれは死産だったという信じられない報告を警察から受けます。
出産の顛末から、テスが産後鬱(postpartum depression)に陥り、その末の自殺だったのではというのが警察含め、周囲の見解でした。
近しい間柄であり、盛んに交流を持っていたはずの姉妹なのに、死産という大切な情報をテスから知らされなかったビエトリス。
他にも、テスの安否を確認する最中、テスが独自に交流するポーランド人の妊婦カシア(Kasia)、学校の課題のためテスト交流を持つ青年サイモン(Simon)などが、ビエトリスの元に訪ねてきて、自分が知らない妹の交流関係を垣間見ることになるし、テスの死後は、妹から死産を知らされなかった事実に加えて、テスが自身の妊娠をある企業団体が開発した投薬の試験に差し出していたことが判明して、ビエトリスを苦しめます。
二人の兄弟であるレオが亡くなったのは、嚢胞性線維症(cystic fibrosis)という遺伝性の病気が原因であり、テスは自身の子供も同じ遺伝性の病気を発症することを恐れていました。
そのリスクを除くために、その企業の投薬に興味を示し、発症を防ぐために検体として自身を差し出していたのです。
これらの情報は、テスの出産間近な様子を見守っていたはずのビエトリスには、何一つ知らされていませんでした。
果たしてテスとビエトリスは、本当に近しい姉妹だったのか。
そして、ビエトリスには他に妹から知らされていない情報はないのか、と疑心暗鬼になっていきます。
作品を通じて、遺された者の立場に立たされたビエトリスは「どれだけ妹テスの死が自殺でないと信じられるか」ということが試された、と感じました。
二人の母でさえ、テスが自らの命を絶ったと思うのに(というか、親として娘が誰かに殺されたと思うことも酷)、ビエトリスは一貫して他殺を疑います。
妹の死は自殺だと片付けようとする警察に不信感を抱くビエトリスは、事件に携わったフィンボロウ巡査(Detective Sergeant Finborough)にことあるごとに自分が気になったことを連絡します。
フィンボロウ巡査は親身にしてくれますが、ビエトリスを取り巻く人々、とりわけ母や彼女の恋人トッド(Todd)は、捜査は警察に任せようと説得します。
自分達は事件解決に無力だと、初めから決めつけているのです。
ビエトリスも特別力があるわけではありませんが、妹を一番知ると自負する点から、絶対に自分の主張を取り下げませんでした。
その頑固さから、ビエトリスは失ったものもありましたが、その頑固さゆえにテスを取り巻く環境の裏側に隠された事実にたどり着き、やがてテスが死の瞬間をどう迎えたのか明るみになっていきます。
物語の終盤はまるで畳みかけるようにエンディングを迎え、読者を置いてけぼりにしたようにも感じましたが、見方を変えれば予想だにしなかった事実を引き出したビエトリスの急転直下な気持ちを表現したようにも感じました。
そう、ビエトリスはテスの荒波に振り回されたのです。
まずテスの妊娠出産は不倫の関係がスタートでしたし(不倫を批判しているのではありません)、出産後は一人で育てることになる状況にも楽観的でした。
むしろビエトリスのほうが、テスが出産後に直面することになる苦労を思い悩んでいました。
一方のテスは、何とかなると構えています。
一見二人は相容れない考え方を持ちつつも、テスは一人で子供を育てる決意をした点は、彼女の強さを感じさせるし、そんな妹を当たり前のように支えるつもりでいるビエトリスにも胸が熱くなります。
ただ、姉の立場の欠点というか、ビエトリスは若干妹の世界に踏み込み過ぎなのかもしれません。
ビエトリスとテスは幼少期の苦労から、若干距離が近いのではと感じながらも、寸でのところで上手に距離感を保っています。
テスの死の真相を知るため、ビエトリスは妹の世界にどんどん足を踏み込んでいき、自分が知らない世界を知ることになり苦しみますが、最後まで妹は生きようとしていたと信じ抜いた末に得た真実は、ビエトリスは心から安心したのではないかと感じました。


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