Author: Patricia Highsmith
翻訳版の有無: あり「リプリーをまねた少年」
映像化: なし
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「心持も含めて、どこまで人の模倣が出来るか試される」というベネフィットを得られます。
リプリーシリーズの第四弾は、疑惑の男トム・リプリーにどこまで近づけられるか、自分を試した少年が登場します。
人を手に掛けて、様々な工作をして保身してきたリプリーのように、この少年が出来るか、という点が本作のポイント。
リプリーが住むVilleperceに見知らぬ十代の少年が現れたところから物語は始まります。
彼は当初偽名を使ってリプリーに近づきましたが、最近ニュースになった、亡くなった富豪のジョン・ピアソン(John Pierson)の息子の一人フランク(Frank Pierson)の年恰好に近かったことから、リプリーは彼がフランクであることに気づきます。
そして少年も、自身がフランク本人と認めました。
父ジョンの死にフランクの家出の理由が関わっていたことを知ったリプリーは、彼をかくまうためドイツのリーヴス(Reeves Minot)のところへ行き、偽のパスポートを作ってフランクに新しい未来を与えようとしますが、少し離れた隙をついてフランクは誘拐されてしまう事態に。
フランク救出のため、リプリーはリーヴスの協力を得ることに。
丁度同じ頃、フランクの兄ジョニー(John Pierson Jr.)と探偵のラルフ(Ralph Thurlow)も渡欧し、リプリーは彼らと接点を持つことに。
彼らと会話をする中、ジョニーの口から、家政婦の一人が父ジョンの死にフランクが関与している話を聞いたというエピソードを伝えるのですが、ジョニーは家政婦の話には否定的。
父ジョンの死は、長年の車椅子生活を送るある日、家の敷地の崖から転落死するという痛ましいものでした。
その当時、ジョンと一緒に崖まで行ったのがフランクで、ジョンが崖から落ちた際、真っ先にそれを知らせてきたのがフランクでした。
その様子を見ていたのがこの家政婦で、フランクに責任があると弾劾するのですが、弟を信じるジョニーは年老いて気難しい家政婦の言うことは聞いていません。
果たして、誘拐されたフランクを救出できるのか。
そして、父ジョンの死に関わりがあるというフランクはどのような結末を迎えるのか。
数々の展開が、物語を面白くしました。
父ジョンの死に関与するフランクに課せられたのは、どれだけ非情になれるか。
非情になるということは、どれだけ徹底して自己保身が出来るかということが試されました。
彼が見ず知らずのリプリーを頼ってきたのは、たまたま自宅にデューワットの絵があり、一連の事件でリプリーの名前を知ったためでした。
リプリーの傍にいれば、フランクも逃げられると思ったのでしょう。
しかし彼とリプリーには決定的な違いがあり、フランクは十代の若者で、お金持ちで経済的な不自由がなく、心も綺麗です。
フランクに新しい人生を与えようとするリプリーは協力的ですが、その行動はどこまでも機械的です。
フランクの揺れ動く心(父親の死に関与する行動を取ったのだから、動揺するのも無理ない)に寄り添うというより、「人生を終わりにしたくないなら、そこから逃げよう。そのためにパスポート偽造して他人になりすまそう」とあくまで合理的です。
フランクはリプリーの行動を真似ようとしても、それは行動そのものであり、彼がリプリーのように非情になれるかはまた別問題。
正直、読者としては、フランクは弱すぎると感じました。
最後のシーンは、これまでの三作品と比べて非常にやりきれない気持ちになりました。
人の心まで模倣する覚悟はあるか、それを問う作品になっています。
それだけリプリーは非情なんだけれども、よく考えると彼に連れそう妻エロイーズや、彼らに仕えるメイドのアネットは割り切っているというか。
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