*この記事は2021年7月11日にNoteへ投稿した記事の再編です。
Author: John Green カテゴリー: ラブストーリー 翻訳版の有無: あり。「さよならを待つふたりのために」 映像化: あり「きっと、星のせいじゃない。」 英語レベル: Advancedレベル寄りのBasicレベル(洋書に一日3分間向き合える)
この本は、こんな人達にオススメします。 ・平凡な日々が退屈だと思っている人 ・自分が生きる意味を探している人 ・大小限らず、挑戦したいことがあるのに挑戦出来ていない人
この作品は、いずれ紹介するもののリストにもちろん入っていましたが、唐突に「紹介したい!」と感じたのは、自然の驚異に不安を感じたから。 今、九州地方を中心に、自然災害の被害に遭われている方がたくさんいらっしゃいます。 一日も早い復旧・復興を願い、不安な日々を過ごしながら、また今日も雨かと気持ちが沈んでいる方が多いのではと思いました。 私も東日本大震災で被災し、その期間に感じた不便さ、心に溜まった鬱屈した気持ちなど、耐えるつらさは言葉に言い表せませんでしたし、同じように被災したのにその程度の違いにより、その人達との温度差を感じて苛立ちを覚えたこともありました。 震災を通して感じたのは、「当たり前はない」ということ。 特に、安全安心な生活環境が保証される、ということはとても素晴らしいことだということ。 自然環境が穏やかで、自分が健康で、生活の糧があると、自分はあと何十年も何事もなく生きられると勝手に思い込んでしまいます。 今日、起きてベッドから立ち上がれたら、それだけで人生丸儲けなのに、感謝もなく当然のように受け取って毎日を過ごしている。 自然災害の影響で今まさにつらい思いをしている方のことを取り上げ、同時に病や死をテーマにしたこの作品を紹介するというのは、少し重いテーマですし、不謹慎だったかもしれません。 ただ、今起きている自然災害と、自分自身が被災して様々なことが制限された日々を思い出し、自分の隣に死があることを意識することなく、何気ない毎日を過ごせることが、どれだけ幸運なことなのかを再認識したので、今この時に紹介します。
ヘイゼル(以下Hazel)にとって、毎朝ベッドから起きられることが当たり前ではありません。 彼女は常に死を意識しながら過ごしていました。 体に転移した癌がある日を境にその成長を止めてから、薬の投与のお蔭で毎日生きていますが、「ある日突然、癌は私を食らい尽くす。私は爆弾を抱えて生きている」という恐怖からHazelは生きることに対して全く希望を見出せません。 いずれ私は両親の前からいなくなってしまうのに、という悲しみに囚われています。 かといって、私は可哀想な人、という悲劇のヒロインを演じるでもなく、だからか聡いHazelは自分の気持ちを両親にも吐き出せず、悶々としています。 そんなHazelの暗い日常に、まるで一石を投じて彼女の心をかき乱したのがガス(以下Gus)でした。 彼は片足を引き換えにしたものの骨肉腫を克服した過去を持ち、毎日生きられることに感謝しながら何事も前向きに捉えながら生活していました。 コミュニティサークルで出会ったGusと過ごすうちに、Hazelは彼の姿勢に少しずつ心の緊張を解いていきます。 そして、二人は思いがけない大冒険をするのです。
病や死と濃く感じながら隣り合わせに生きる、という事柄を除くとHazelとGusの恋はどこにでもある美しいもの。 ボーイミーツガールの典型のように偶然出会い、一緒に過ごし、一つの小説を通じて大冒険を経験して、そして愛を語り合います。 ただ、二人は明日予告なく、突然にさよならをするかもしれないという、不安が常について回ります。 二人の死に対する考え方が大きく違うのが、この作品を読むうえでポイントになります。 Hazelは、間違いなく自分が両親を遺していくとわかっていて何事にも悲観的に捉える一方で、Gusはすべてを受け入れて今の自分がいる環境に感謝していてどこか達観しています。 作中、二人が大冒険のため外の世界へ飛び出すまで、GusはHazelに何か特別なことをしたわけではありません。 彼女と出会い、とりとめのない話をして一緒に時間を過ごしただけ。 ですが、一人の人との出会いにより、Hazelは心を開いていくのです。 最後のシーン、GusがHazelに充てた手紙を自身の家の庭で寝転びながら読み、彼の心がこもった言葉をかみしめ夜空に向かって微笑むHazelの表情は、作品冒頭で描かれる彼女の表情とはうって変わって柔らかく、明るいものです。 平凡で安心安全な生活が当たり前になると、身近な幸せに感謝出来なくなります。 ルーティンワークに慣れると変化を嫌うのが我々の常なので、中々新しいことに挑戦する気力も湧きません。 HazelとGusは、自身の病気を言い訳にせず、外の世界に飛び出しました。 飛行機に乗ってアムステルダムへ行くのは、たとえHazelの母の付き添いがあってもリスキーなことでしたが、目的の達成と二人の関係の進展には必要な旅でした。 そしてGusとの恋を通して、何事も永遠に続かない、けれど今その瞬間を心から生きることがどれだけ大切か、Hazelは強く実感します。 Gusとの刹那の恋はHazelの永遠の宝物であり、傍にいる人、あるものの大切さをかみしめて、心穏やかになるのです。 この作品は私にも、どんな小さなことでも挑戦すること訴えかけてくました。 病や死がメインテーマのため、病院に搬送されるといったイベントや、HazelやGus以外の闘病者との交流もあり、常に病や死を意識せざるを得ませんが、不思議にも雰囲気が明るいです。 Hazelの病気の程度も決して軽くないですし、冒頭の彼女は鬱っぽくなっているので暗く重い作品であっても仕方がないのですが、それがそうでないのは、Gusに出会って気分が明るくなっていくHazelの気持ちが反映されたと捉えると、心が救われると感じられます。
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