Author: Kathryn Stockett
翻訳版の有無: あり。邦題「ヘルプ 心がつなぐストーリー」
映像化: あり「ヘルプ 心がつなぐストーリー」
英語レベル: Advanceレベル(洋書を一年間に1冊読了出来る)
この本は、こんな人達にオススメします。
・今を変えて新しい未来を作りたいと思っている人
・現状に違和感を覚えているけどうまく変化させられていない人
・子供の頃にお世話になって人へ伝えられていない感謝の気持ちがある人
人種問題を取り扱っている本作品。
主人公の一人が黒人女性であり、書いている人が白人女性。
アメリカでは(アメリカだけでなく他の国でもおそらく)センシティブな話題である、人種問題を取り上げて、しかも「白人の視点から描いた本で、黒人が白人の対応を暴露する」という物語のなので、きっと二十一世紀の今でも出版まで長い道のりがあったのかな、と自ずと感じられる作品です。
作中、面白くマーガレット・ミッチェル作「風と共に去りぬ」のマミー視点で作品を書いたら違った視点になる、というような旨表現する文章が出てきて、思わずにっこりしたことを覚えています。
難しいテーマを取り上げつつも、サブテーマとしてアメリカの六十年代を舞台に「女性の社会進出」を取り上げているので、二つの視点で楽しめる作品でした。
私は南部三大作家としてマーガレット・ミッチェル(ジョージア州)、ハーパー・リー(アラバマ州)、トルーマン・カポーティ(ルイジアナ州)を挙げているのですが、同じく南部の州であるミシシッピ州出身の作家さんが出てきたことを嬉しく思います。
また、本作品は人間関係「3」を意識しているのかなと感じられた作品でした。
物語の本筋は、作家を目指す白人女性が「現状で違和感を覚えることをリサーチすること」という宿題を出され、白人家族に遣える黒人メイドに対する違和感を覚えて、彼女達をインタビューする、ということです。
この話の一番メインの「3」になるのが、作家志望の白人女性ユージニアことスキーター(スキーター:蚊みたいにスレンダーな女性であることからmosquito=skeeterと呼ばれている)、彼女がインタビューする黒人メイドのエイビリン(Aibileen)とミニー(Minny)です。
この作品はこの三人の目線から進んでいくのですが、いろいろなテーマから切り取ると「3」の人間関係が出てきます。
先に記載した女性の社会進出も、この「3」の中に含まれます。
まず物語の目線の「3」スキーター、エイビリン、ミニー。
それぞれが人種によって差別されることに違和感を感じていて、世の中もアパルトヘイト撤廃の方向に進んでいるものの、アメリカ南部は歴史的に中々変化しなかった地域なので、その州の一つで生活するエイビリンとミニーはかなり鬱屈した気持ちがあっただろうなと思いながら二人を見ていました。
スキーターも、自身が子供の頃に黒人メイドがナニーとして育ててくれた過去を持ち、人種の違いを越えて感謝していたのに、自身の友人達は黒人メイドを下に見ているコメントをしていることを違和感を感じています。
彼女達が、世の中の流れを変えようとして、勇気ある行動に移ります。
それが、スキーターが黒人メイド達にインタビューして本を出版すること。
インタビューに答えれば最後、誰が回答したかがばれることをおそれて誰も声を挙げなかったけれど、エイビリンは最初に手を挙げてスキーターに協力するのです。
それは、エイビリンが自身の違和感を知ってほしいという強い気持ちから、スキーターに協力するのです。
さて、そのほか「3」の人間関係はたくさんありますが、その一つとして母親というくくりでエイビリン、スキーターの友達であるヒリーとエリザベスがよい比較かなと思いました。
エイビリンは一人息子を不幸な事故で亡くし、以降自身が世話する白人の子供達にしか心を開きませんが、その慈悲深い姿勢が素敵な乳母であるように感じました。
スキーターの友達であるヒリーとエリザベスは、典型的な白人女性として描かれていて、特にヒリーは本作品のヒール役で登場するのですが、一方で母親という視点ではヒリーは誰よりも素敵な母親です。
黒人女性(メイド)は格下、立場が下として扱います。
自身の家の外にメイド専用のトイレを設置し、そこで用を足すように指示するのですが、自身の子供に対しては手を掛けるし心を掛けるし、友人よりも子供達を優先して愛情を掛ける素敵な女性です。
でも、黒人と白人との付き合い方はきっちり分けている。
同じくスキーターの友人であるエリザベスは、子育てをメイド任せ。
白人の家にメイドとして働くエイビリンはエリザベスの家のメイドですが、エイビリンのお蔭でエリザベスの娘である1歳の娘のメイ・モブリーは真っ当な子供に育ち始めていると感じられます。
同じようにメイドの手は入るけど、ちゃんと目を掛けているヒリーとは大違いのエリザベス。
自身の子供には慈悲深い母親であるにもかかわらず、メイドには人種差別者のカラーが強く出るヒリー。
皮肉というか、ヒリーはいろんな顔を持つ人だなと思った人です。
悪役のはずなのに、どこか憎めない人間らしさや矛盾を抱えた人だなと思いながら読みました。
現在と過去を繋ぐ「3」の関係として、エイビリン、スキーターそしてスキーターの育ての親となった黒人メイドのコンスタンティンが挙げられます、
スキーターは、大学生時代までずっと自身の家に仕えていた黒人メイドのコンスタンティンを誰よりも慕っていて、手紙のやり取りを続けてきました。
しかしある日を境に彼女からの手紙が途切れてしまい、帰郷後に母親からコンスタンティンの退職をしるのですが、全く納得できません。
コンスタンティンの謎の失踪の真相を明らかにしてくれたのが、黒人メイドへのインタビューでした。
エイビリン含め様々なメイドへの聞き取りを進めるうちに、スキーターはエイビリンからコンスタンティン退職の真相を伝えられます。
自分が知らなかったコンスタンティンの過去も知ることになり、驚愕するのですが、ある種それは人種や大人社会の事情があり、コンスタンティンは当時学生のスキーターをブロックしたのかなと思いました。
ヒリーと、ヒリーの元カレとその妻の関係もこの作品にスパイスを与えていますし、女性の社会進出では親になって満足したヒリーとエリザベス、その二人の友とは対照に自分のキャリアを優先するスキーターが比較の対象として挙げられていいて深堀すると面白いアウトプットが得られそうです。
人種問題、女性進出など重いテーマを取り上げているため、主人公スキーター、エイビリン、ヒリーはシリアスな立ち位置にいますが、物語を明るくしてくれるのがミニー、彼女がのちに仕えることになるフート家の旦那さんジョニー(Johnny)とその妻シリア(Celia)。
人種の垣根を越えた州で育ったため、ミニーを黒人メイドとしてではなく一人の女性と見てくれるシリアは、とにかく明るいキャラクターとして登場します。
シリアのご主人のジョニーは昔ヒリーと付き合っていた過去があり。
その婚姻もどうもジョニーがヒリーを捨てた格好のようで、根に持つヒリーから仲間はずれ状態にされているのですが、何とか彼女と仲良くしようと健気にコンタクトを取る姿が悲しいくらいコミカルで物語を明るくしてくれました。
彼女も「母親」というテーマでヒリー、エリザベスと比較すると興味深いのですが、彼女の場合、中々母親になれない悲しい描写があるので、比較後に悲しくなると思うので覚悟は必要です。
シリアの明るさ、健気さは、いろんな経緯があって彼女の家のメイドになったミニーにとって後に救いになります。
メイ・モブリー(Mae Mobley)を挟んで実母エリザベスと乳母エイビリンの「3」の関係も面白く、自身の息子を亡くして以降白人の誰にも心を開かないエイビリンはメイ・モブリーのお蔭で実世界に繋がっていられます。
この三人でエイビリンを真ん中にすると、エリザベスはエイビリンのお蔭で娘であるメイ・モブリーと繋がれて危うい母子関係が何とか存続出来ているという関係になります。
エリザベスは先に記述したとおり、エイビリン任せの育児をしているのでメイ・モブリーとどう接していいかわかっていません。
エイビリンがいてくれるお蔭でメイ・モブリーは真っ当に育っているのです。
「3」を意識するときりがないくらい人間関係が出てくる本作品。
メインテーマの人種問題や女性の社会ン進出だけでなく、新しい発見を与えてくれます。
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