Author: T.H.White
翻訳版の有無: あり「石に刺さった剣」
映像化: あり。「王家の剣」
英語レベル: Advanced寄りのBasic(一日3分英語と向き合えるレベル)
この本を読むと、「思いがけない人生のターニングポイントは、案外身近にあると納得出来る」というベネフィットを得られます。
アーサー王の話には昔から興味がありました。
貴族の家庭に育ちながら出自は平民の少年が国の王になり、仲間と活躍しながらも親友と妻の裏切りに遭うという何とも切ない巡りあわせに、生きることのやりきれなさを感じたものです。
こちらも子供の頃にディズニー映画で見知っていたので、原作があるのならぜひ読んでみたかった。
おりしも、本作を読み始めた時、関連を持たせた「The School for Good and Evil」も読んでいたのでリンクしているようで面白かったです。
本作は、アーサー王の幼少期から晩年を描いた作品集なのですが、今回紹介するのは、アーサー王の幼少期のパートです。
彼が王になる前、ウォート少年として貴族の家で生活していた時分に焦点が当たります。
ウォート(Wart: イボの意味を持つ)は魔法使いマーリン(Merlyn)と出会い、彼から動物に姿を変えられた状況で道徳を学び、やがて国の王になるところまで描かれています。
ウォートはエクター卿(Sir Ector)の養い子として引き取られ、彼の実子ケイ(Kay)と共に育ちました。
年を重ねるごとに気難しく、武術がうまくいかなくなるケイの傍で、彼の中に怒りが少しずつ育つ過程を見ながらも、ウォートは義兄を慕い続けます。
ケイと成長し、一方でマーリンの魔術に触れて生きる力を付けていきます。
マーリンはウォートを動物の姿に変えて、様々な生き物の視点から教えを説いていきます。
魚や鳥への変化、そして姿を変えられた後その生物たちとの会話は面白いです。
そんな明るい雰囲気のある物語の中で、たびたび触れられるのはウォートの願い。
彼もケイのように王国に仕える騎士になりたいという思いがあるのです。
ウォートはエクター卿の実子でなく、平民のため、なれるのはsquireという騎士の従者。
ケイに仕えることになりまりますが、彼にはそれが不満です。
子供の頃にはそこまで感じられなかった身分の差が、なれる職業の違いによりはっきりと浮き出るのです。
ウォートは大人になっても、ケイと兄弟の時間を過ごしたいと願う、純粋な心根の持ち主でした。
そんな彼が一国の王になるのだから、運命も皮肉なのですが。
さて、ウォートがそこまで身分の差を意識せず育ったのは、彼自身の気性だけではなく、エクター卿とケイの誠実な人柄もあるのではと思わせてくれる場面があります。
少しネタバレになりますが、本を楽しんでいただくために、だいぶ省略しますね。
それはまさに作品タイトルとなった、石に刺さった剣との場面。
物語後半、先代の王が亡くなった後に、ある教会の前に石に刺さった剣が現れ、この剣を石から抜いた人が次の王になるという宣旨が出ました。
この宣旨通り石から剣を抜くのがウォートなのですが、ウォートはその剣を抜いた後ケイに差し出します。
ケイももちろん石に刺さった剣の話を知っていますから、剣の様子を見て不穏に思い、ウォートにこの剣の出どころを問い詰めます。
その場面にエクター卿も混ざり、彼も剣の存在に気づいてケイが抜いたのではと問いかけました。
ケイははじめ、その問いに自分が抜いたと告げるのですが、すぐに父にそれは嘘でウォートが抜いたと告白するんですね。
ケイの自白をエクター卿も責めたりせず、二人の息子たちを受け止めてあげるのです。
心底悪い人達なら、ウォートの手柄を親子で隠ぺいしてしまいそうですが、それをせずウォートを次の王として受け入れるのだから、誠実だと思わざるを得ません。
国に仕える人に仕える、という自身の運命が一転、国の王になるという、思いがけない人生のターニングポイントを経験するウォート改めアーサー。
彼のように、私達も思ってもみないターニングポイントを迎えることもありますね。
定年まで勤めようと思っていた会社を辞めて起業する。
家庭を支える立場から芸能人になる。
怪我や病気をきっかけに啓蒙活動を始める。
そのターニングポイントがもたらす事柄は、ネガティブなこともポジティブなこともあるので、その人生の転機を評価するのは中々難しいですが、私の場合、ターニングポイントから時間が過ぎて振り返った時、あの時のターニングポイントは私にはプラスだった、と言えることの方が多いと思っています。
このアーサー王の物語も、続きが楽しみです。
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