Author: Jenny Han
翻訳版の有無: なし
映像化: あり。「好きだった君へのラブレター」
英語レベル: Advanced(一年に一冊洋書を読破出来るレベル)
この本を読むと、「秘めた想いは人に見せないよう隠すことが最善と認識できる」というベネフィットを得られます。
近未来の警察を舞台にしながら秘密は墓場まで持っていきたい、という人の願いを描く作品に清水玲子先生の「秘密Top Secret」がありました。
通常、人が見ることが出来ない記憶を、脳に電磁波で刺激することで映像化し、犯罪の解決のツールにするという内容です。一方でその方法は倫理的にどうなの、という問いかけをする決して軽くないテーマの作品でした。
私は作者、作品ともども好きでずっと読んでいます。
人に言えない秘密、というところを切り取ると、これに関連して、それをもっとポップでライトに描いたのがこの作品。
男性への仄かな恋心を抱き、それを伝えられない十代の女性の切なさを描いています。
ララ・ジーン(Lara Jean)は三人姉妹の次女。
大学進学のため間もなく家を出る姉マーゴット(Margot)、生意気盛りでかつ意外としっかり者の妹キャット(Kat)、病院勤務の父の四人で暮らしています。
目下ララジーンの心配事は、姉が不在になることで、自分が姉のようにしっかり家を回していけるかということ。
母は、ララジーンが十二歳の時、家の掃除中に転倒し頭を強打した怪我が原因で、のちに眠るように亡くなってしまうという悲しい経験をしますが、二歳年上のマーゴットが母替わりに家のことを回してくれたことで、一家はつつがなく暮らしてこられました。
(頭を強打したことで、血管が切れて血の塊が出来てしまったのだと思います。)
マーゴットはやがて進学のためスコットランドへ行くのですが、彼女は旅立つ前に、隣人で姉妹の幼馴染のジョシュ(Josh)に別れを告げます。
二人は恋人同士ですが、大学進学時に恋を持ち込むべきでないという母の教えを守り、マーゴットは別れを告げていなくなるのです。
ジョシュは当然失意にくれます。
それはララジーンも同じこと。
ララジーンは、気持ちを口に出来ず、遂に伝えられなかった恋心を手紙につづることで片思いを終わらせるというやり方をして、これまで誤認の男性たちへの思いを断ち切ってきました。
そのうちの一人がジョシュで、マーゴットがジョシュと付き合い始めたと家族に告げた夜に、手紙を書いて自分の秘密の箱に封じました。
以来、ララジーンはジョシュへの気持ちを抑えてきたのですが、ジョシュがフリーとなったことで気持ちが揺れ動きます。
ここで彼女がジョシュへアプローチをする、あるいは近くにいる者同士交流が始まって、恋も始まる、ラブストーリーにありきたりな展開になるのかと思いきや、本作のオリジナリティーは、ララジーンが箱に封じ込めていた手紙にあります。
なんと、五人に向けたそれらの手紙が、彼らに向けて発送されてしまうのです。
(彼らの住所をご丁寧に封筒に書いていたということです。なんて几帳面なララジーン 笑)
この手紙を受け取った五人の一人、ピーターはララジーンのファーストキスの相手で、手紙をきっかけに彼女に近づきます。
数日前に、これまたララジーンの幼馴染のジェネヴィーヴと別れたばかりのピーターは、くっついたり離れたりを繰り返す腐れ縁の彼女の気持ちを揺さぶるためにララジーンと恋人の振りをするよう持ち掛けます。
ピーターは、ララジーンがジョシュに対して不毛な気持ちを抱いていることを彼女との会話の中で理解し、彼女にもチャンスを与えたのです。
果たしてこの偽物の恋人関係はどういう方向に展開していくか、という目が離せない状態でしたが、ララジーンの秘密である手紙が日の目を浴びなければ、この物語は始まらなかったというもの。
とはいえ、人に知られたくない自分の気持ちが、自分の意志と関係なく日の目を浴びるというのは、気持ちがよいものではありませんね。
だったら勇気を出して伝えるよ、というのが私の意見ですが、なかなか難しいですね。
必ずしも自分の気持ちを相手に伝えることが最善ではないので、自分が相手へ気持ちを伝えたいという焦りと、いろんな理由で伝えたい気持ちを抑えるという理性とのバランスが
必要なのかもしれません。
やはり最後は、その決断に対しどう責任を取るか、ということを決められるかにかかっているのかもしれません。
Comments