Author: Joan G. Robinson
翻訳版の有無: あり。「思い出のマーニー」
映像化: あり「思い出のマーニー」
英語レベル: AdvanceよりのBasic(洋書に一日3分向き合えるレベル)
この本を読むと、「誰だって孤独を感じるし、自分は独りぼっちではないとわかる」というベネフィットを得られます。
日本人なら多くの人が慣れ親しんだ作品の一つに、ジブリ作品があります。
その一つに含まれるこの「思い出のマーニー」は、自分の心に受けた傷を癒す一人の少女の旅です。
この旅は、自分が住む町からノーフォークという町へ旅し、療養する中で出会った不思議な少女との交流を経て、少女は自分の孤独と向き合い、人の孤独に触れ、成長していく物語です。
その少女が本作品の主人公、アンナ(Anna)。
読めば読むほど物語前半のアンナは暗いし心を閉ざしているし、嫌ですね。
でも、それもそのはず。
彼女は物語の前半、自己否定を繰り返します。
母親と祖母を亡くし、孤児となったアンナはいわゆるフォスターファミリーとなるプレストン家(The Preston)へ引き取られます。
実母と実祖母へに対し、自分が置いて行かれたと恨むアンナ。
プレストン家では最低限の応対をしますが、一般の目線でいうとアンナはいわゆる「塩対応」です。
プレストン家は、アンナを引き取ることで国から支援金を受け取っているようですが、その事実を隠されたことで、アンナはプレストン夫妻が愛よりお金を優先した思ってなお心を閉ざします。
ノーフォークへ休暇で訪れ、世話先のペグ家(The Pegg)も表面上アンナを快く受け入れますが、どこか変わったアンナを持て余す始末。
ますますアンナは心を開こうとしません。
そのアンナがノーフォークで惹かれたのが、海の近くに建つある家でした。
その家に住む少女マーニー(Marnie)と出会い、二人だけで遊んで過ごす時間に安らぎを抱きます。
でもこのマーニーも、素性のよく知れない少女で、彼女と会えないとアンナがどこか不安げな様子。
マーニーが怖がる風車小屋での出来事、それを経て突然の別れ、そしてマーニーの家を買い取り休暇としてやってきたリンジー家(The Linsay)との出会いにより、アンナの心情は一気に動くことになります。
物語を通じてフォーカスされたのは、孤独。
人は誰でも孤独を抱えている、という一節は確かにそのとおりなのですが、アンナが自身のそれと格闘するのは「自分を否定していること」と「誰にもわかってもらえない」という葛藤があるから。
実母と実祖母を亡くしたことで、自分が置いていかれて天涯孤独になった状況を、アンナは恨み、自分の存在を否定しています。
おそらく自分には価値がないと思い込んでいるのですね。
彼女は二人を恨んでいると作中で認めていますが、独りぼっちなのだから、寂しいというのが本音です。
その寂しさを誰にもわかってもらえない。
アンナを引き取ってくれたプレストン家のよさを周りの人達は褒めるも、アンナはそれを受け入れられない。
いや、心ではわかっているけれど、自分の心が癒えていないためにプレストン夫妻に対する心からの感謝を伝えきれない。
アンナの複雑な心境が絡み合い、うまく消化出来ないというのが彼女の葛藤なのです。
そこで出会ったマーニーも、のちに孤独だったとわかります。
マーニーの素性を突き止めるというのが後半の物語の山場で、アンナはその体験をリンジー家の面々と迎えることになります。
リンジー家はアンナにとって、彼女を温かくにぎやかに包んでくれた安らぎの場になりました。
リンジー家には五人の子供達がいて、マーニーとの突然の別れを経験したアンナがマーニーの家で出会います。
特に次女のプリシラ(Priscilla)と仲良くなりますが、プリシラはアンナを明るい方向へ向かわせてくれる橋渡し役として登場します。
このリンジー家が前半の静けさと打って変わって、明るい。
子供達が五人もいること、母親のリンジー夫人が闊達としていること、父親のリンジー氏も静かながらアンナを迎え入れてくれたことが、アンナを安心させてくれるのです。
さて、橋渡し役のプリシラですが、彼女がアンナを家族に引き合わせ、アンナに抱いた印象を伝え、そしてプリシラが自分の部屋で見つけたマーニーの日記をアンナに見せる、という物語後半の要となる行動をやってのけます。
マーニーがアンナの孤独を忘れさせてくれる相手なら、プリシラはアンナに孤独と向き合う勇気を与えてくれた相手です。
アンナは二人の友の力により、孤独と向き合い、本当に大切な人は誰かということに気づいていくのです。
アンナの心を表すかのように、作品前半は静かでどこか寂しい気持ちになりながら読み進めましたが、後半は一変してリンジー家の明るさによって生き生きとしていきます。
アンナの心の機微にも触れられる作品になっています。
ファンタジー作品ながら心と向き合う作品であり、子供だけでなく大人も楽しめる作品です。
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